白山の室堂ビジターセンターに泊まった人の多くは、山頂でのご来光を楽しみにしている。
日の出前に鳴る神社の太鼓の音を合図に宮司さんとともに登り、山頂でお祓いを受けることが出来るのだ。
しかし。
悪天候の予報通り、2日目の朝太鼓は鳴らなかった。
のんびりと目を覚まし、6時過ぎに朝食をいただきに行く。
今日の予定を再確認し、まったりと朝を過ごした。
フロントのスタッフに確認し、7時30分荷物を置かせてもらってガスガスの中山頂へアタック。
約40分という山頂への道もとても整えられていて歩きやすかったが、山頂に近づくにつれ霧だったガスが雨粒となり、強風に乗ってバチバチと体に当たって来た。
8時20分奥宮に到着。
塀に守られたお社て呼吸を整え、お参りする。
物好きな人が数人写真を撮っていた。
「飛ばされるぅ〜」の図。
晴れていればいくつかの池を巡る散策コースがあるのだが、どこがルートかもわからなかったので迷わず諦め、ビジターセンターへ下る。
雨が強くなり、足元に気をつけながら歩く。
ビジターセンターへ戻ると、下山する人がスタッフに道の状況などを質問していた。
「この天気なんで、どちらを通ってもそれなりに大変だと思いますよ…」という声が聞こえたので私は何の疑問も持たずに観光新道での下山を決めたがこれがまことに大変な道のりであった。
昨日の景色が嘘のような弥陀ヶ原。
黒ボコ岩にも誰もいない。
ここから分岐して、観光新道へと入る。
斜面に切られた登山道は風を遮る樹木もなく、風速15メートルの風が体をさらっていく。
写真では伝わらないが、谷底からガスがすごい速さで登ってくる。
でもまだこの蛇塚あたりはよかった。
この先、大きな船の鼻先みたいな山の急斜面を下らなければならなかった。
あまりの強風に、この私でさえ次の一歩が出せないほど。
このような環境に慣れない友人がなかなか進まない。(私も慣れないが(笑))
ここで止まってても風は止まない、と励まして何とか斜面を下っていく。
とりあえず縦の移動が一段落し、標高が下がったことで少し弱くなった風に耐えながら横の移動へ。
こんな天気で無ければ、きっと壮大な景色が広がりまさに観光新道、というコースだっただろう、と思いながら先へ。
約20分ほど歩くとその先に避難小屋が見えた。
たまらず中に入る。
強風にあおられバランスを崩すと滑落につながるという緊張感を、たまらず脱ぎ捨てる。
友人が入れてくれるコーヒーが、心を冷静にしてくれた。
途中、何人かのグループが小屋を訪れたが、これから登る、と言っていた人たちには、風の強いことを告げて、無理をしない方がいいと忠告させてもらった。
新しい小屋の扉も強風でガタガタしている中、まだまだ先が長いルートに足を踏み出す。
急な斜面に切り出された道もあれば、稜線上を緩やかにアップダウンする道もあり、
実はとても歩き甲斐のあるコースなのでは?と考える余裕も出て来た。
気がつくと雲がだいぶ上にある。どうりで暑く感じるわけだ。
雨を感じなくなったのでカッパを脱ぐ。
山頂付近は大層な暴風雨だったが、約2キロほど離れたこの辺りまで来ると地面もさほど濡れてなくて歩きやすい道だった。
途中にあった筑波山の弁慶七戻りを思わせる岩のゲート。
だいぶ標高が下がって来たところで、最後、別当出合登山口への急降下の分岐となった。
喜市郎坂と名付けられたこの急斜面は、石や木で段差が作られているとはいえ容赦ない角度であった。
きっと喜市郎さんが整備して下さったんだな。
ありがとう😊
急登が落ち着き、樹木が生い茂る中を緩やかに下っていく。
アプリの地図を見ながら、「もう少し、もう少し」と少しバテ気味の友人を励まして歩く。
14時35分、登山口が見えた!
別当出合ビジターセンターで荷物を整理する。
途中殿ケ池避難小屋に置かれていたスマートウォッチを係の人に引き継ぐ。
ハードな下山ルートにバテてしまった友人は自販機でシュワシュワしたものを買い、少しパワーが復活したようだった。
駐車場まで約5分ほど歩き、無事登山終了。
久しぶりに命の危険を感じるスリリングな登山であった。
このあと、途中にある白峰温泉でスッキリ汗を流して金沢のご自宅まで帰り着いたのであった。